2005.12.5

日本書籍出版協会

 

従来、当協会が公表している「出版契約書(一般用)」ヒナ型は、多くの出版社にご活用いただいております。出版契約の基本となるのは従来同様、出版契約書(一般用)ですが、「著作物利用許諾契約書」ヒナ型はこれに加え、選択肢のひとつになるものとして作成されました。

以下に、出版契約書(一般用)と 著作物利用許諾契約書の使い分け方法・相違点をお示しします。各社におかれましては、それぞれの出版物の実情に合わせて使い分けてご利用いただければ幸いです。

 

 

出版契約書(一般用)と著作物利用許諾契約書の使い分け方法

 

■ これまで「出版契約書(一般用)」(出版権設定契約)により契約していた場合

⇒ 引き続き、従来通り「出版契約書(一般用)」をご利用ください。

 

■ 出版権設定は難しいが、書面により契約したい場合

⇒ 「著作物利用許諾契約書」による契約締結をお勧めします。

 

※印刷出版だけでなく、著作物の多角的な利用を具体的に進めたい場合は、「出版契約書(一般用)」または「著作物利用許諾契約書」を基本に、各条項を実情に合わせて変更してください。

 

 

 

著作物利用許諾契約書と出版契約書(一般用)の相違点

 

1.印刷出版に関する基本的な内容

著作物利用許諾契約書は、契約の目的である著作物を、印刷媒体を用いた出版物に「独占的利用」することに対する許諾を基本的な内容とするものです(第1条)。

出版契約書(一般用)では、出版権設定契約(著作権法第79条以下に規定)という法律構成を採っており、出版者は著作権者から排他的・独占的な出版権の設定を受けます。これは文化庁に登録することで準物権的な効力を有し、善意の第三者に対抗できます。

これに対して、今回の利用許諾契約は、当事者間の債権契約としての独占的利用を定めるもので、仮に著作権者が同じ著作物について善意の第三者である別の出版社とも出版契約を結んでしまったような場合に、出版権設定の登録という法律上の対抗要件を持つことはできません。著作物利用許諾契約書を作成した意図は、出版権設定契約の締結が容易でない場合にも、書面による契約締結の促進を図るという目的によるものです。

 

2.電子出版やその他の二次的利用に対する取り決め

著作物利用許諾契約書では、第2条および第3条で印刷媒体の出版物以外への著作物の利用についての取扱いをわかりやすく示しています。すなわち、電子的な利用(パッケージ系のもの、オンライン系のもの、データベースへの格納)については、印刷媒体の出版物を発行した出版者に「優先権」を認めています。また、第三者が利用したいといってきた場合には、「窓口権」として、出版者は著作権者から権利処理の委任を受けて、第三者との交渉に当たることができます。

この規定によって、出版者は、自ら電子的利用を行うための優先権を得るとともに、著作権者が出版者の頭越しに第三者と電子的利用についての契約を結ぶのを防ぐことができます。

より積極的に、当初から出版と並んでその他の二次的利用をお考えの場合には、著作物利用許諾契約書をベースに、利用方法ごとにさらに具体的な条件等を取り決めておく必要があります。場合によっては、独占的に許諾を得ておくことも必要でしょう。各社の実情に合わせ、著作物利用許諾契約書の各条項を加除修正してご利用下さい。

また、第3条で規定する複写権、貸与権、その他の二次的利用についても、出版者は「窓口権」を持つこととされています。ただし、具体的条件は甲乙間での協議に委ねられていますので、現実に何らかの二次的利用が行われる際には、別途の取り決めを著作権者との間で結ぶ必要が出てきます。 

※なお、この条項と同様の規定は出版契約書(一般用)でも、第19条から21条にかけて定められており、法律的にほとんど相違はありません。したがって、出版契約書(一般用)  を利用する場合でも、上述の利用における「優先権」「窓口権」は出版者に認められています。

 

3.著作者人格権への配慮

電子出版では、印刷出版に較べて格段に著作物の改変、編集、翻案等を行う機会が増えていきます。少なくとも、テキストベースの著作物を電子媒体に格納する場合、見出し・キイワードの付与等は不可避的なことであり、将来の電子出版発行に備えて、著作者人格権のうち、特に同一性保持権(同法第20条)についての対応が必要になってきます。著作物利用許諾契約書第5条はそのような状況に対応したものです。

 

4.オンデマンド出版の努力義務

6条3項では、通常の増刷が困難な場合には、甲乙協議の上で、「オンデマンド出版に努める」との規定を置いています。出版契約書(一般用)では、出版者は著作権法で定める出版権者の継続出版の義務を負うことになります(同法第81条)が、独占的利用許諾契約ではそのような義務は法律上はありません。

しかし、オンデマンド出版の技術が徐々に発展し、質的にもコストの面からも容易に取り組むことが可能になってきました。このような状況において、出版者としても、オンデマンド出版の実現する可能性がある場合には、道義的な問題としても著作物の公表の機会が継続するように努力する旨を掲げています。

  

5.秘密保持、個人情報の取り扱い

著作物利用許諾契約書から新たに追加された条項として、秘密情報の取り扱いおよび個人情報に関する取り決めがあります(第18および19条)。

19条は、2005年4月から全面施行された個人情報保護法に対応するための規定です。政府の解釈では、書名、著作者名等の書誌情報も、著作者個人を特定できる個人情報にあたると解されています。このような情報を出版物の製作、広告、宣伝、販売等に利用することは出版活動においてはある意味で当たり前のことですが、法の趣旨を尊重して念のため、著作権者の了解を得ておくこととしています。

さらに、著作者の肖像、経歴等、書誌情報の範囲を超える個人情報については、甲乙協議によって取り扱いを決めることとしています。

※なお、出版契約書(一般用)にも、秘密保持と個人情報の取り扱いについて、同文の条項を追加しました。

以 上

 

 

【お問合せ】  日本書籍出版協会・調査部(樋口、川又、小杉)  Tel. 03-6273-7061(代表) E-mail: rd@jbpa.or.jp